ご入居者の死

Nさんという女性のご入居者様がいました。

持病があり、私が入社した時はもうほぼ全介助が必要でしたが、もともときちんとされている方なのでしょう。発言することも難しくなった状態でも「ありがとう」「いいよ」と、一生懸命伝えようとしてくれました。

そのNさんが先日亡くなられました。

Nさんを偲び、感謝の意を込めて書きたいと思います。

予兆

「Nさん、最近立ち上がりが弱いねぇ・・・」

スタッフの間でそんな話が増えました。

その他は変わりないように見えましたが、ゆるやかに病気が進行していたのでしょう。ある頃から急にADLが低下し始めました。亡くなられる数週間ほど前のことです。

咀嚼や嚥下が弱くなり、食事は日を追うごとに厳しくなりました。介助に入りますが、摂取してほしい反面、詰まらせて命に関わる恐れもある難しさを感じました。

だんだんベッド上で過ごす時間が多くなり、Nさんの笑顔は見られなくなっていきました。

ある日の違和感

その日、Nさんの食事介助の担当は私でした。

朝食、昼食とほとんど召し上がることはできませんが、「水分だけでも」と注意しながら介助に入りました。

夕食の時間、再びお部屋に入りNさんの顔を見た瞬間、違和感を覚えました。

急に頰がこけ、顔色が暗くなったように感じたのです。

ほんの数時間前に会ったばかりなのに。

経験がない私でも「これは最期が近いのでは」と思いました。

翌日、Nさんは入院しました。

亡くなられたことを聞いたのは、それから数日後のことでした。

変わらない施設の日常

あっという間のできごとで、なんだか信じられなくて、実感がわきませんでした。

施設の日々はいつもと変わりません。慌ただしい時間が流れています。朝が来て、食事して、介助して、眠って。

Nさんがいないことを話題にする人はいませんし、Nさんのいた席にはもう別のご入居者が座っています。

寂しいような、もっとしっかりNさんを偲びたいような・・・そんな気持ちがありがながらも、あまりに忙しい業務に文字通り忙殺されていきました。

風が吹く部屋

Nさんの死に向き合えていない罪悪感があったからか、彼女の部屋に入ることはなかなかできませんでした(ご逝去後整えてありました)。

そしたらある日、先輩スタッフに仕事を頼まれて、Nさんの部屋に行かなければならないことになりました。

ドアを開けた瞬間、胸がギューっと締め付けられるような、重いようで清らかなような、なんとも言えない気持ちになりました。

窓が開いていて、強い風にカーテンがハタハタと揺れます。

「間違いなくNさんはここにいたんだなあ。ここで生きてこられたんだなあ」

飾られていた写真の中の笑顔のNさんに、ゆっくりと手を合わせました。

介護職として、もっとできたこと、しなければならなかったことがあったのかもしれません。

私にとっては初めてのご逝去でした。

無力ですね。誰かの人生の終わりに、何かしてあげたいと思ったのは傲慢だったなあ。多分、そういうことじゃないんだろうなあ。

いろいろ考えさせられました。

 

改めてNさんのご冥福を心よりお祈りいたします。

Nさんのこと、忘れません。ありがとうございました。